標準模型からスワンプランドへ
数式を前提としない全5回の連載です。順番に読むと、量子重力につながる有効理論の条件を問う理由がわかります。
- 素粒子標準模型(この記事)
- 有効理論
- 力の統一と重力
- 弦理論とランドスケープ
- スワンプランド問題
机も、空気も、私たちの体も、原子からできている。では、原子をさらに細かく見ていくと、何が現れるのだろう。
原子の中心には原子核があり、そのまわりに電子がある。原子核を構成する陽子と中性子は、さらにクォークからできている。こうした物質の基本的な構成要素と、その間の相互作用を記述する理論が、素粒子標準模型だ。長年の実験によって確かめられてきた、現代物理学の重要な到達点である。CERNによる標準模型の解説

粒子の一覧の、その先へ
標準模型に登場する物質の粒子は、大きくクォークとレプトンに分かれる。電子はレプトンの一種で、ニュートリノもこの仲間だ。
ただし、標準模型は粒子を分類するだけの理論ではない。粒子がどのように生まれ、散乱し、別の粒子へ変わるかを計算するための枠組みでもある。
その基礎にあるのは「場の量子論」だ。ここでは粒子を、小さな固い球というよりも、空間に広がる場の量子的な励起として扱う。電子の場には電子が、電磁場には光子が対応する。
三つの力を記述する
自然界の基本的な相互作用には、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用、重力がある。このうち標準模型が記述するのは、重力を除く三つだ。
| 相互作用 | 身近な現象とのつながり | 対応する粒子 |
|---|---|---|
| 電磁相互作用 | 光、電気、原子や分子の結びつき | 光子 |
| 弱い相互作用 | ベータ崩壊など、粒子の種類が変わる過程 | Wボソン、Zボソン |
| 強い相互作用 | クォークを結び、陽子や中性子を作る | グルーオン |
さらに、標準模型にはヒッグス場がある。その働きによって、W・Zボソンや電子などが質量を持つ仕組みを説明できる。ヒッグス粒子は、その場に対応する粒子だ。ただし、身のまわりの物質の質量をすべてヒッグス場だけで説明できるわけではない。陽子や中性子の質量の大部分には、内部の強い相互作用のエネルギーが寄与している。CMS実験によるヒッグス粒子の解説
成功している理論にも、答えられない問いがある
標準模型は重力を含まない。また、暗黒物質の正体なども説明できていない。CERNによる未解決問題の説明
ニュートリノにも重要な手がかりがある。通常の最小の標準模型ではニュートリノは質量を持たない。しかし、観測されたニュートリノ振動は、少なくとも一部のニュートリノに質量があることを示す。そのため、標準模型に何らかの拡張が必要になる。Fermilabによるニュートリノの質量の解説
ここで立ち止まっておきたい。説明できないことがあるからといって、標準模型がこれまで説明してきた現象まで失われるわけではない。理論には、よく働く範囲と、それだけでは足りなくなる範囲がある。
その範囲をどう考えるか。次の記事では、有効理論という考え方を見ていこう。

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