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2026.10.14 / kazuto

空は、どうして青い? ― 誘起双極子からレイリー散乱を導く【レベル3:理論でつなぐ】

木々と家並み、電車、水面を見渡す川沿いの街。

探究レベル3:理論でつなぐ

前提知識:大学の電磁気学の基礎、ベクトル、複素数表示、立体角積分。SI単位系を使います。

この記事の到達目標:誘起双極子の放射から微分・全散乱断面積を導き、λの−4乗則の前提を特定できる。

1.何をモデル化するか

1つの分子を、外からの電場に応答する点状の電気双極子として扱います。分子の特徴的な大きさをa、真空波長をλ、波数をk = 2π/λとして、ka ≪ 1を仮定します。入射光は弱い単色平面波、応答は線形、分子は等方的とします。以下では空気の屈折率が1に近いことを使い、入射波と遠方の放射を真空中の式で近似します。

電子は結合によって束縛されています。光が分子全体を帯電させるのではなく、電荷分布をわずかに変位させ、時間変化する双極子モーメントを誘起します。実在分子の電子構造は量子力学で定まりますが、その線形応答を分極率にまとめれば、放射の計算には古典電磁気学を使えます。

2.分極率と振幅の定義

複素振幅をE₀、偏光の単位ベクトルをeとし、物理的な電場は E(t) = Re[E₀ e exp(−iωt)] とします。等方的な分極率α(ω)を、次のSIの定義で用います。

p₀ = α(ω) E₀ e

p₀は双極子モーメントの複素振幅です。pの単位はC m、Eの単位はV/mなので、αの単位はC m²/Vです。文献によってはα/ε₀やα/(4πε₀)を「分極率」と呼ぶため、数値を流用するときは定義をそろえる必要があります。

3.双極子放射を入射強度で割る

観測方向の単位ベクトルをn、分子からの距離をrとします。遠方場では、双極子放射の電場振幅は次式です。全体の符号は強度には影響しません。

Esc(r) = [k² exp(ikr) / (4πε₀r)] {(n × p₀) × n}

nに平行な双極子成分は放射に寄与せず、垂直成分だけが残ります。入射の時間平均強度と散乱光の強度は、それぞれ I₀ = ε₀c|E₀|²/2、Isc = ε₀c|Esc|²/2です。微分散乱断面積を「単位立体角へ出る放射パワー ÷ 入射強度」と定義すると、

dσ/dΩ = r² Isc/I₀ = [k⁴|α|² / (16π²ε₀²)] |n × e|²

となります。dσ/dΩの単位はm²/sr。断面積は分子を幾何学的に切った面積ではなく、入射光からどれだけのパワーが散乱へ移るかを面積の単位で表す量です。双極子放射の角度分布はFitzpatrickの電磁気学講義でも導かれています。

4.全散乱断面積と、青が散乱されやすい理由

直線偏光に対して|n × e|² = sin²θであり、全立体角での積分は8π/3です。したがって、

σ = k⁴|α|² / (6πε₀²) = [8π³ / (3λ⁴)] |α/ε₀|²

を得ます。右辺の|α/ε₀|²はm⁶、λ⁻⁴はm⁻⁴なので、σはm²となり、次元も一致します。

ここでαが波長にほとんど依存しない範囲なら、σ ∝ λ⁻⁴です。逆4乗は、単に分子が「青を好む」からではなく、時間変化する双極子の放射と光の周波数の関係から現れます。分極率に分散があると、その分だけ純粋な逆4乗則からずれます。

5.分極率を一定とみなせるのは、どんなとき?

近似の構造を見るため、電荷−e・質量mの束縛電子を減衰付き調和振動子として考えます。これは実在分子の軌道をそのまま再現するモデルではありません。

m ẍ + mγ ẋ + mω₀²x = −e E(t)

p = −e x とおくと、定常応答の分極率は

α(ω) = (e²/m) / (ω₀² − ω² − iγω)

です。ω ≪ ω₀かつ共鳴から十分離れていれば、α ≈ e²/(mω₀²)となり、周波数依存を小さくできます。Fitzpatrickの散乱講義は、この束縛電子モデルの低周波極限を扱っています。共鳴近傍では逆4乗則だけで説明できず、分散・吸収・減衰の取り扱いが必要です。

6.太陽光を無偏光として平均する

入射光の進行方向と散乱光の進行方向のなす角をΘとします。入射方向に垂直な2つの偏光を等しい重みで平均すると、

(dσ/dΩ)unpol = [k⁴|α|² / (32π²ε₀²)] (1 + cos²Θ)

となります。角度依存性は、偏光の方向を固定したときのsin²θとは違います。θは双極子と観測方向の角、Θは入射・散乱光の進行方向どうしの角なので、混同しないことが重要です。

散乱面に垂直・平行な成分の差から、理想的な等方双極子による単一散乱の直線偏光度は

Π = (1 − cos²Θ) / (1 + cos²Θ)

となり、Θ = 90°で1です。実際の空では分子の異方性や多重散乱、エアロゾルなどがあるため、「太陽から90°の方向なら必ず完全偏光」という予測にはなりません。

7.この式で分かること、まだ分からないこと

ここまでで、分子1つの散乱断面積と理想的な角度分布を得ました。しかし、空の放射輝度には分子の数、太陽から散乱点まで・散乱点から観測者までの減衰が必要です。さらに、見える色を得るにはスペクトルを目の応答へ結びつけます。この計算を第4段階で組み立てます。

確認問題:λを半分にしたとき、σが16倍になるための条件は?

αの変化が無視でき、点双極子・線形応答・非共鳴などの近似が両波長で有効なことが必要です。一般には比は16 × |α(λ/2)/α(λ)|²となり、16だけとは限りません。

出典と式の対応

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アイキャッチ:QLIコンセプトイラスト(AI生成)。

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